PEOPLE

伊豆の山海が育む素材を、“風味”へと昇華する。
一皿に込める、料理人の矜持

エクシブ伊豆 料理長 小椋彰彦氏

~エクシブ伊豆 日本料理 生簀割烹「黒潮」料理長 小椋彰彦氏インタビュー~

故郷・新潟の素朴な味を出発点に、湯河原の高級旅館で修業を重ね、全国各地で経験を積んできた小椋彰彦さん。現在はエクシブ伊豆における日本料理の料理長として、旬の恵みを生かしながら日々新しい一皿を生み出しています。
大切にしているのは、見た目の華やかさではなく、口にした瞬間に広がる“風味”。その余韻こそがお客様の記憶を彩り、和食の本質を伝えると考えています。
はたして、その料理を形づくる原点や探究心とはどのようなものなのか。その歩みと哲学に迫りました。

新潟の素朴な味から学んだ“純粋な美味しさ”

18歳で親元を離れ、高級旅館で板前修業を始めた小椋さん。幼いころ好きだった機械いじりか、あるいは料理か――迷った末に選んだ道が、今へと続いている。

「出身は新潟ですが、内陸ということもあり味覚のルーツは田舎の素朴な料理なんです」と語る小椋さん。新潟ながら海は遠く「刺身が美味しくなかったし、干物なんかも伊豆のような脂がのったものはありませんでしたねでも、お米や水が美味しい、野菜もみずみずしい。そうしたシンプルな味が自分の原点かもしれません」と振り返ります。
高校卒業と同時に飛び込んだのは、湯河原にある高級旅館。そこで出会ったのは家庭では決して出合えない一皿でした。
「青梅の甘露煮を初めて食べた時、『世の中にはこんな料理があるのか!』と衝撃を受けました。素材の一つひとつに手間暇をかけることで、味が立ち上がる、そんな和食の奥深さに思い知りました」(小椋氏)
扱う食材はどれも超一流のものばかりの高級旅館で、料理の技だけでなく、盛り付けのバランス、器の使い方まで仕込まれた若き日々。「とにかく忙しくて、休みもほとんどありませんでした。でも、あの下積みがなければ今の自分はありません」と振り返ります。著名人も足しげく通う名宿で積み上げた年月は、いまも小椋さんの料理の核になっています。

伊豆の恵みを生かし、進化を続ける料理

エクシブ伊豆でも人気の金目鯛をはじめとする、伊豆の海が育む豊かな恵み。料理長の発想を刺激し、旬を生かした一皿へとつながっていく。

一度は独立して店を構えた小椋さんでしたが、理想と現実のギャップを感じてリゾートトラストに入社。エクシブ伊豆で副料理長を務めた後、エクシブ蓼科、リゾーピア別府と異動を重ね、各地で経験を積んできました。そして2019年、再び伊豆に戻り、料理長として腕を振るっています。
「別府も海の幸は豊富でしたけど、伊豆には金目鯛やサザエといったこの場所ならではの恵みがあります」と語る小椋さんにとって、食材は料理を形づくる核そのもの。「自分がその時に美味しいと思う味を追いかけているんです」と言うように、料理長として十年近くを重ねる中で味付けも少しずつ進化してきました。
新しい食材との出会いも日々の刺激に。面白いものがあれば作って食べてみて、良ければもっと美味しくできないかブラッシュアップ。近隣の道の駅や市場、さらには漁協のSNSで得た情報もヒントになるといいます。「今アジやカマスが上がっています」と聞けば、すぐに試す。こうした積み重ねが新たな料理を生み出します。
最近、エクシブ伊豆で好評なのが「金目鯛尽くし」のフェア。稲取の旅館のような、王道の伊豆料理を出しても面白いんじゃないかと考えて形にしたところ、想像以上にヒットしました。姿煮や船盛を含むこのコースは、今やレギュラーに次ぐ人気メニュー。伊豆の豊かな海と土壌に向き合いながら、料理長は常に“今”の料理を磨き続けています。

味の記憶を紡ぎ、次世代へとつなぐために

「料理は最終的に“味”で決まる」という信念を胸に、一皿一皿へと真剣に向き合う小椋さん。見た目の美しさ以上に、食べた瞬間の風味や余韻こそが記憶に残るという。

「『伊豆で食べた料理が一番おいしかった』とお客様に言っていただけるのは、本当にうれしいですね。単純ですけど、料理人にとっては最高の誉め言葉です」。小椋さんはそう語り、和食の本質は最終的に“味”にあると力を込めます。見た目の華やかさよりも、食べた時の美味しさや香りといった“風味”こそ記憶に残るものだと考え、ひと皿の中で味の変化を感じさせる工夫を大切にしてきました。
そんな料理哲学を支えに、次の目標として掲げるのは後進の育成です。
「自分がここを辞めた後に料理長が育っていない、ということにはしたくないんです。定年を迎える前に、『この人なら料理長を任せられる』と思える人材を育てたいですね」(小椋さん)
自身の経験を惜しみなく伝え、背中を見せるだけではなく理論や技術を丁寧に伝える姿勢を貫いています。現在は10人ほどのスタッフを束ね、外国人スタッフも含めた多彩なチームで厨房を運営。少人数で立ち上げ直した時代を知るだけに、今の体制は心強いと語ります。新しい施設が次々と誕生するなかで、伊豆に足を運ぶ会員も増えており、その期待に応えるためにも、料理の質を守りながら次代を担う料理人の成長を何より重視しているのです。


故郷での素朴な味の記憶、各地で積み重ねた経験、そして伊豆の地で磨き続ける探究心。そのすべてが小椋さん料理を形づくっています。「味の奥にある風味を感じてもらいたい」という言葉通り、一皿ごとに込められた思いは食べる人の記憶に残るものです。
今は後進を育て、次の世代へとバトンを渡すことも大きな目標。けれど厨房に立つ姿勢は変わらず、お客様の「伊豆が一番おいしい」という声に応え続けること。その一途な情熱こそが、エクシブ伊豆の和食を支える原動力となっています。

金目鯛を中心とした刺し身盛り合わせ
2025.7

・写真はイメージを含みます。また、撮影当時の情報を基に記事にしており、現在の景観や記事内容と異なる場合がございます。予めご了承ください。